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2014年8月31日(日)に新国立劇場はオペラパレスで避難体験オペラコンサートを開催しました.
コンサート中に震度5弱の地震が発生し,コンサートが中断,舞台から火災が発生し避難.
というストーリーでの訓練を行いました.訓練にはおよそ1300人が参加しました.

提供:新国立劇場

産総研ではこの避難体験オペラコンサートを
人の流れの計測技術とシミュレーション技術によって解析しました.
 

| 人の流れの計測によって分かったこと

新国立劇場オペラパレスの避難経路に50台のRGB-Dカメラを設置し,
1300人の避難時の人の流れを計測しました.

 

この計測によって,どの経路から何人が避難したかが,明らかになりました.
下図がその一例です.青丸のように全く誰も通らなかった経路がありました.
また,赤丸のように多くの人が誤った経路を選んでしまった箇所もありました.
先頭の人が経路を誤って階段を下りてしまい,ほとんどの人がそれに付いていきました.
下の階で混雑が発生しました.

一度,人の流れができてしまうと,例えそれが誤った経路でも
後ろの人は皆ついて来てしまいます.

正しい経路を歩いていても誰も続く人がいないと不安になります.
正しい経路から誤った経路に引き返す人も観測されました.
初期の段階で正しい流れを作ることが大切です.

アンケートからも案内の声が聞こえないと人の流れについていく
という傾向が顕著に表れています.

もう一つ面白い現象が観測されました.
建物から出る際に扉が4枚あるのですが,2枚の扉だけが開けられ,
混雑しているにも関わらず残り2枚の扉をほとんど誰も開けようとしないのです.

 

では,扉が開くとどのくらい避難時間が変わるのでしょうか?
下の結果は扉が開いている枚数と1秒間に扉を通った人数の計測結果です.
きれいな比例の関係にあることが分かります.

当然のことながら扉が開いている枚数の多い方が速く避難することができます.
 

| 人の流れのシミュレーションによって分かったこと

では扉が全て開いている場合とそうでない場合で避難時間はどの程度違うのでしょうか?

それを調べるのがシミュレーションの役割です.
扉が1枚しか開いていない場合と扉が4枚全てが開いている場合を
シミュレーションした結果が下の図となります.

丸は人を表していて,流れる箇所が緑色,混雑している箇所が赤色となります.
一目瞭然で全ての扉が開いている方が速く避難できることが分かります.
扉が全部開いていると5分39秒で避難が完了するのに対して,
扉が1枚しか開いていないと11分31秒かかります.倍以上の時間が必要です.

この結果から扉を開ける誘導員が必要そうなことが分かります.
ただ,上の例では誤った経路を選択した人が出ました.
扉を開ける人と経路を誤らないように誘導する人とではどちらが大事でしょうか?

もちろん,どちらも大事ですが,誘導員の人数は限られています.
どちらかにしか人を割り当てられない時,どちらを優先すればいいでしょうか?
そういった分析もシミュレーションが得意です.

扉を1枚開放と4枚開放の2通り,避難経路が正しい場合と誤った場合の2通り,
参加者が1300人(避難訓練時)と1800人(満員)の2通りの組み合わせで
2×2×2 = 8通りのシミュレーションをした結果が下の図です.
横軸が時刻,縦軸が避難完了の人数です.

満員の時の4つのグラフを見比べてみましょう.
扉が4枚開いていれば例え経路を誤っても避難時間はほとんど変わりません(青と紫).
扉が1枚の場合は4枚の場合に比べて避難時間が大きく延びて(青紫と赤緑),
扉が1枚の場合は経路を誤るともっと時間がかかるということになります(赤と緑).

ここから扉を開けることは非常に大事なことが分かります.
では避難の際にどのようなことに注意しなければいけないのでしょうか?

それを調べるためには網羅的なシミュレーションが必要です.
条件の掛け算でシミュレーションの計算量は増えていきます.

上の実験のように2つの選択肢の条件が3通りあれば 2×2×2 = 8通り.
2つの選択肢の条件が10通りあれば 2×2×2×2×2×2×2×2×2×2 = 1024通りです.
指数的に計算数は増えていき,30通りあれば…なんと約10億通りにもなります.

1回のシミュレーション計算に10秒が必要だとしたら10億通りで100億秒…
つまり320年の計算時間が必要になります.ここで必要になるのがスーパーコンピュータです.

我々はスーパーコンピュータを150日動作させ,
およそ700万通りの避難方法をシミュレーションで検証しました.
特定の階段を利用すると避難時間が長くなることなどが分かってきています.
 

| その後の展開

本研究内容は,

大西正輝,山下倫央,星川哲也,佐藤和人,
“人の流れの計測とシミュレーションによる避難誘導の伝承支援
―新国立劇場における避難体験オペラコンサートを例に―,”
人工知能学会合同研究会,知識・技術・技能の伝承支援研究会,SIG-KST-026-06,Nov. 2015.

で発表し,人工知能学会から研究会優秀賞を頂きました.

また,少しでも経路を分かりやすく表示しようという問題意識から,
新国立劇場では人の流れを調査しながら分かりやすい看板を作成し設置しました.

 

あっ!その時どうする…?
そんな問題意識から開催された避難体験オペラコンサート.
万一災害が起きたときに被害を最小限にするために研究を役立てていきたいと思っています.

   
   国立研究開発法人産業技術総合研究所 大西 正輝
   本研究に対するお問い合わせは onishi@ni.aist.go.jp にご連絡下さい.
   

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