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東日本大震災から10年そして次の10年
2011年3月11日の東日本大震災からちょうど10年が経ちました.私がいたつくばの職場周辺では棚が倒れ,天井が落ちて,壁に亀裂が入りました.電気が止まり,水が止まり,信号が消えました.当然電車は止まり,職場から帰れなくなった人を引き連れて家に帰りました.灯油はあるのに電気がないのでストーブがつかない.とても寒い暗闇の中で,ろうそくを灯して皆で鍋をつつきました. あの日から10年が経ち,記憶は薄れかかってきていますが,原発が停止し,電気が足りない.計画停電があり,東京の繁華街からはネオンサインが消えました.日本に住んでいた多くの外国人が余震と放射能を恐れて帰国しました.社会も自粛ムード.電力需要はひっ迫し,東京の人が減りました. そんな中で我々研究者に何ができるのか? 震災発生から11日後の 3/22 に東京電力が電力の使用状況の公開を始めました.そのころ人の流れの計測や予測をしていた私は,すぐにそのデータを取ってきてその日の電力を予測して計画停電が起きるか起きないかを予測するプログラムを作り始めました.そして 3/27 に停電予報!というサイトを公開.このサイトでは予測だけではなく,どんな節電方法があるかを紹介し,皆がテレビ消すなどの節電をすればどの程度効果があるかを可視化しました. 手元の資料によると yahoo! が電気予報βを公開したのが 1 か月後の 4/27,東京電力がでんき予報というサイトを公開したのが 7/1 なのでいち早く公開することができたといえそうです.また,節電機運を高めることが大事だと思い,オーニシ家の節電生活という漫画を描いてもらって停電予報のページに載せました.この漫画は今もホームページに掲載しています.この頃の取り組みは日経エレクトロニクスに紹介されました. 当時,我々は秋葉原の駅前のビルで人の流れを計測していました.震災によって人の流れがどう変わったのか?それを明らかにする必要があると考え,以下の発表を行いました.
大西正輝,依田育士,山下倫央,野田五十樹, この話を持っていくと施設の管理者の方が「電車が止まって皆帰れなくなったので,各店舗に店を開けて温かい食べ物を提供するように指示して,集まった人が休憩できるように施設を開放した.でもその情報がテレビやネットで広がり多くの人が集まることに不安を感じた」というようなことを言っているのを聞きました. 当時 twitter が広まり始め,それを使って情報の流れをとらえるという研究が行われていました.情報を見て人が流れる,人が見て情報を流す.そのメカニズムはどうなっているのだろうか?そういった問題意識から以下の研究を行い,発表しました.このあたりの問題意識は10年経った今も変わりません.
Masaki Onishi, Shinnosuke Nakashima, 新型コロナウイルスがなければ,震災から10年の今日はもっとインパクトをもった1日だったはずです. 歴史的にみると,1855年に安政の大地震,1923年に関東大震災,2011年に東日本大震災が起きています.また,1858年にコレラ,1918年にスペイン風邪,2020年に新型コロナウイルスが日本で流行しています.大きな地震と疫病は100年くらいの周期で発生しているようです. 2016年に電子情報通信学会のパターン認識とメディア理解という研究会で2030年のグランドチャレンジを考えるという企画があり,以下の発表を行いました.
大西正輝,依田育士, この原稿の中で,私は以下のように記述しました. 「この対数速度で研究や技術が進歩すると仮定すると理論上は10年後には地球上の全ての人を平均寿命の100年程度計測できることとなる.そうだとすると世界中の人の移動を通して地球レベルの現象が観測できるようになるはずである.事実, 商業施設で9年程度人の流れを計測した実験では鳥インフルエンザやSARS の流行によって外出を控えるようすなどが計測されている. もし,世界レベルでの人の動きが計測できれば,このような感染症の動きなど地球規模の問題の解明にも期待できるかもしれない.」 新型コロナウイルスが世界で広がり始めたとき,自分で書いたこの文章を何度も読み返し,そして,自分に何ができるかを考えました.今の私が持つすべての力を使ってできることは何かを考えました.東日本大震災から10年が経って,世の中に出てきた技術はスマートフォンのGPSデータの普及,そして大規模な計算環境です.これを使って何か研究ができないか. 2020年2月中旬にGPSデータを扱うブログウォッチャー社の協力を頂き,「人の空間的な移動に基づくマルチエージェントシミュレーションを用いた感染拡大の分析」を始めました.この研究成果は内閣官房のCOVI-19 AI・シミュレーションプロジェクトのリサーチクエッション4で報告されています. これまで一貫して人流解析に関する研究を行ってきています.上にも紹介している2011年と2016年の論文のタイトルには「人流」という言葉を使っています.コロナ禍のテレビ放送ではじめて「人流」というキーワードが流れたときには驚きました.自分が行ってきた研究の重要さを皆さんも感じたと思ったからです.2020年はこれまでに一番「人流」という言葉を聞いた1年でした. 人流解析をキーワードにして,その時々でどのように研究で社会に貢献できるかを考えてテーマを設定してきました.10年前の東日本大震災の時に比べると自分の研究力も情報発信力も強くなっている一方で,職位が上がったことによって思うように進められない不自由さを感じることもありました.
それでも多くの人達に支えてもらいながら研究は着実に一歩一歩進んでいます.次の10年,2030年のグランドチャレンジの達成に向けて新しい技術を切り開いていきたいと思います.
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