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コロナ禍の授賞論文
新型コロナウイルスによって研究会や国際会議は軒並み中止や延期,そしてバーチャル開催になりました.最後に行った国際会議は2020年2月にニューヨークで開催された人工知能の会議 AAAI.ちょうど新型コロナウイルスが武漢から広がっているという話になり始めた頃で,日本からアメリカには入国できましたが,中国からは規制がかかりました.

それ以降,海外にはどこにも行っていません.本来だと本会議やワークショップに採択されて ICPR@ミラノ,AAMAS@オークランド,CVPR@ニューオリンズなどに行っていたはずなのに…残念….この間,現地で参加した唯一の学会は日本の人工知能学会の全国大会@京都のみです.

こういった会議と同じく論文賞などの授賞式もなくなりました.なぜか,コロナになって(それは関係ないと思いますが…),これまでに書いてきた論文のいくつかが論文賞,あるいはそれ相当の大きな賞をいただくことになりました.本来,論文賞は栄誉ある賞なので,それぞれの学会の総会などの後に表彰されることが多いのですが,残念ながらそれもバーチャルになってしまって,懇親会のお寿司も出てきません…

本当に申し訳ないのですが,研究室でおめでとう!の会も開催できていません.そこで記録を残すためにも最近受賞した研究を少し振り返っておきたいと思います.

Yoshihiko Ozaki, Masaki Yano, Masaki Onishi,
“Effective hyperparameter optimization using Nelder-Mead method in deep learning, ”
IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications, (2017) 9:20.

執筆当時はコロナ前でしたが,忘れたころに IPSJ Outstanding Paper Award 受賞の連絡をいただきました.コロナ禍だったので,そのうち皆でお祝いできるだろう…と思って共著者の賞状や盾は私がまだ預かったままのものもあるかもしれない…ままに今に至っています.

本研究は産総研でリサーチアシスタント(RA)の制度ができた初代雇用の尾崎君の研究成果.深層学習がブームになりかけていたところで,早くからそのパラメータ調整などの難しさを見抜いて研究テーマとして仕上げました.GPU マシンをたくさん作って,周囲の研究者にはマシンがうるさい,暑い…といわれ続け,さらには所内の監視盤室から何度もブレーカーが落ちそう…と連絡を受けながら研究をつづけていました.恐らく深層学習あるあるですね.

2件目の受賞の連絡も忘れた頃にありました.

重中秀介,大西正輝,山下倫央,野田五十樹,
“データ同化を用いた大規模人流推定手法,”
電子情報通信学会論文誌,vol.J101-D, no.9, pp.1286-1294, Sep. 2018.

本論文は2020年度ISS論文賞を受賞しました.受賞のページには「先見論文」と紹介されています.授賞式でも,オリンピックなどで重要となる研究テーマというような紹介を頂いた覚えがあります.受賞したのは正にオリンピックが開催されるはずの2020年でした.この年にオリンピックは開催されず…翌年に延期されて開催されたオリンピックは残念ながら無観客となりました.

本研究はオリンピックでは出番がありませんでしたが,現在のコロナ禍に安全に大規模イベントを開催するにはどうすればいいのか?という問いに指針を与える研究へと発展中です.詳細については今後発表していく予定なので期待していてください.

ISS論文賞よりももう一段格式の高いのが,電子情報通信学会の論文賞で,以下の論文が第77回(令和2年度)論文賞を受賞しました.

尾崎嘉彦,野村将寛,大西正輝,
“機械学習におけるハイパパラメータ最適化手法:概要と特徴,”
電子情報通信学会論文誌,vol.J103-D, No.9, pp.615-631, Sep. 2020.

残念ながら,日本は人工知能に関する研究でトップを走ることはできていません.世界の研究のスピードは本当に速く,日本では全くそのスピードについていけていないように感じます.限られた時間やリソースをどこに割くのかが難しい問題です.AutoML など世界的に権威のある学会で発表すると共に,日本の論文誌には日本語で誰もがアクセスできる最先端の技術を紹介する原稿を書く方針で研究を進めました.

が,これは簡単な道のりではありませんでした.こちらが調べて原稿を書くスピードよりも,世界中の研究者が新しい研究を発表するスピードの方がはるかに速いのです.原稿を書いてさぁ投稿しようと思う時には新しい手法が発表されているのです.これでは,いつまでたっても原稿が完成しません.我々が投稿して査読プロセスに進む間に,新しい同様のサーベイ論文が発表になって,それと比べて新しいところは何か?と聞かれてはじめの投稿論文は不採択と判定されました.

それでも何とかかんとかモチベーションを維持しつつ,再投稿し,採択にこぎつけました.一度目の投稿が不採択になったことには憤りを感じつつも最終的にはいい研究内容になって,受賞できたのだろうと思っています.

この論文を執筆するもう少し前のこと…

1本目に紹介した論文を書きながら研究室には深層学習に関する知見がたまっていましたが,同時に,論文を書こうと思うとあれが再現できない,これが再現できない,しかも,皆が自分の手法が一番良いと言っている印象がありました.そこで,提案されている様々な手法を実装し,第三者の観点で各手法のベースラインを作り,どの手法がどのくらい精度が向上するのかを数値として明らかにすることに意味があるのではないかと思いました.

そこで書いたのが以下の論文で,2021年度ISS論文賞を受賞しました.

矢野正基,大賀隆裕,大西正輝,
“深層学習を用いた画像識別タスクの精度向上テクニック,”
電子情報通信学会論文誌,vol.J102-D, No.2, pp.34-52, Feb. 2019.

ちょうど日本語の論文誌の意義は何か?というのが問題になっていたころで,その答えの一つがこういう論文かなと思って投稿したところで受賞となったので,その方向性は間違ってなかったのかなと思っています.

この論文で得られた数々の知見は今も研究室の中で受け継がれています.その代表的な研究は,コロナ禍において大規模スタジアムでどのくらいの人がマスクを着用しているのかを計測する技術への適用です.コロナになって大規模イベントの開催には観客の制限がかかりました.特にスポーツの観戦において問題になったのが,観客はマスクをしているのか?声を出して応援しているのか?ということです.Jリーグなどと協力しながらこれらを深層学習によって計測し,数値化し,公表してきました.これらの研究成果は,

大西 正輝,坂東 宜昭,竹長 慎太朗,辻 栄翔,内藤 航,保高 徹生,
“大規模イベントを安全に開催するための視聴覚認識技術の現場適用,”
で人工知能学会の2021年度 現場イノベーション賞(Field Innovation Award)の金賞を受賞しました.

また,“新型コロナウイルス感染予防と社会経済活動の両立に向けた一連の研究開発と社会貢献,”として産総研理事長賞(特別貢献)を受賞しました.

これまでに行ってきた大規模イベントの計測やシミュレーションや最適化.また,AutoML というのは機械学習自身の最適化です.これらの独立していた研究がうまく連携し,成果が繋がり始めてきたように感じています. (2022/7/17)

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